私は普段、急性期病院に勤務しており、救急外来にて"突然の病気や事故で昨日まで元気だった人が急に亡くなった"という状況で死亡宣告に立ち会うことが多くありました。突然の別れでご家族は気持ちの整理がつかず、泣き崩れたり、もっと伝えたいことがあったと後悔されたりしていることもしばしばありました。このような経験から、いつしか自分の中で死はネガティブで悲惨なものというイメージが定着していましたが、いしが在宅ケアクリニックでの研修でイメージが変わりました。
お看取り間近の方の訪問診療に同行させていただいたとき、ご本人もご家族も穏やかで、お別れが近いと分かっていながらも明るく過ごされている姿が印象的でした。お別れまで時間的猶予がある点は急性期病院での経過とは異なりますが、「患者さんやご家族にいい思い出は作れないか」、「充実した時間をいかに作り出すか」、医師や看護師など多くのスタッフが一人の患者さんのためにアイデアを出し合って模索している姿を研修中に度々目にしました。私が研修していた時期はちょうど桜が咲く季節で、家族と外で花見をしたいという患者さんの希望を叶えるべく、環境調整や体調管理などをどのようにしていくか、医療スタッフが意見を出し合って調整していました。その後花見を楽しんでいただけたようで、満足そうな笑顔を浮かべた患者さんとご家族の写真を見せていただき、私まであたたかな気持ちになりました。このように患者さんの希望に寄り添って叶えることができるのは、病院と比較して患者さんやご家族との距離感が近い在宅医療ならではの良さだと感じました。またこのような思い出は、患者さんが亡くなった後に遺された家族にとっても、前向きに生きていく一助になっているのではと感じました。医療が発達しても突然の悲しい別れをゼロにすることは難しいと思いますが、在宅医療では穏やかに最期を迎えることも可能であるということを目の当たりにし、私の死生観が変化した1か月間でした。
最後になりましたが、いしが在宅ケアクリニックの皆さま、あたたかくご指導いただき誠にありがとうございました。研修させていただいた1か月間の経験を糧に今後の診療に励んでいきたいと思います。