私は現在、三重県立総合医療センターで研修医をしています。入院患者さんの担当をさせていただく場合、急性期治療を終えると、退院されたり慢性期病院へ転院となることが多く、なかなかその後の経過をみる機会がありません。
在宅医療を研修させてもらってまず感じたことは、自覚症状や家庭環境、居住環境にフォーカスを置いており、病気よりも患者さん自身と寄り添い、問題に対して一緒に向き合っている印象がありました。
病院だと、たばこやお酒、甘い食べ物など身体にとって有害になるものは控えるようにお伝えすることが多いです。しかし、在宅医療では患者さんがやりたいことを止める場面は少なくQOLを重視している感じが面白いなと思いました。
訪問させていただいた患者さんの中に「お酒とタバコが今の楽しみや。最後まで好きにさせてもらえて幸せや」と話されている方がいました。その日、奥さんに看取りの説明をした際に涙を流されてはいたけど、後悔はなく死に対してネガティブな感情は持っていない印象でした。その2日後にお亡くなりになりましたが、それまでの過程もいかに苦痛を和らげるかという点に重きを置いており、治療よりも人生の最期をより良いものにするためのサポーターという印象を受け、急性期病院とはまた違うやりがいを感じました。
また、訪問し衝撃を受けた患者さんがいるので紹介させていただきます。
その方は癌の末期で入院中は全然元気がなく顔も真っ青で食事もろくに食べられていませんでした。退院して帰宅した日の初診に同行させていただいたのですが、終始ニコニコしており、「うなぎが食べたいな」「孫はいつ帰ってくるんや」など仰っていてみんなで楽しく会話をしていました。患者さんが帰宅されたのをご家族が喜ばしく思っているのもひしひしと伝わってきましたが、それ以上に患者さんが本当に嬉しそうで入院時との表情の違いにみんながビックリしていました。
今まで在宅医療のイメージは、最後をお家で迎えるためのサポートという認識でした。自宅に帰ることが、これほど患者さんに元気を与えるのかと衝撃を受けました。
また、訪問診療全体を通してコミュニケーションの大切さを痛感しました。最初は、若い癌終末期の方の訪問の時に何を話していいかわかりませんでした。しかし、残りの人生の中でやりたいことのサポートをするにはしっかりコミュニケーションをとって関係を築き、好みやご家族さんとの関係など患者さんについて知る必要があると実感しました。また私自身、患者さんとしっかりお話をすることが好きなんだと気づくことができました。
最後に、クリニックの皆さん本当に優しくて居心地がよかったです。1人で訪問した際にわからないことがあるときは看護師さんやアシスタントさんが優しくサポートして下さって心強かったです。楽しく充実した1ヶ月を過ごすことができました。本当にありがとうございました。